映画『キングダム 魂の決戦』で描かれるのが、原作屈指の人気エピソード「合従軍編」です。楚・趙・魏・韓・燕・斉——秦を除く六つの国が手を結び、最強国・秦を滅ぼさんと襲いかかる、シリーズ最大規模の総力戦。
そもそも「合従軍(がっしょうぐん)」とは何なのか。なぜ六国は手を組んだのか。そして史実ではどうだったのか——この記事では、キングダムをより深く楽しむための背景を、史実と物語の両面から解説します。
合従とは「縦に連合する」という意味
「合従」という言葉は、中国の戦国時代に生まれた外交戦略に由来します。
当時の中国には「戦国七雄」と呼ばれる七つの強国がありました。西の最強国・秦に対し、東側に楚・趙・魏・韓・燕・斉の六国が南北に並んでいた——この地理が、戦略の名前を決めます。
六国が南北(縦)に連合して秦に対抗する策を「合従」、逆に秦と個別に手を結ぶ策を「連衡」と呼びました。「従」は「縦」を意味し、南北に並んだ国々が縦に団結することを指しています。この二つを合わせた「合従連衡」という四字熟語は、今でも「利害に応じて結びついたり離れたりすること」の意味で使われていますね。
この合従策を各国に説いて回ったのが、蘇秦(そしん)という遊説家でした。「一国では秦に敵わないが、六国が同盟すれば十分に戦える」——彼の論は、秦の圧倒的な強大さの裏返しでもあったのです。
なぜ六国は秦を恐れたのか
合従の動機は、ただひとつ——秦の膨張への恐怖です。
秦は商鞅の変法以降、軍事・農業・行政すべてを国家総動員する体制を築き、他国を圧倒する力をつけていきました。領土を少しずつ削り取られていく六国にとって、秦の存在は「いつか自国も滅ぼされる」という現実的な脅威だったのです。
とりわけ象徴的なのが、紀元前260年の長平の戦いです。秦の白起が趙の捕虜40万人を生き埋めにしたと伝わるこの惨劇は、趙の国力を決定的に奪い、六国の心に深い恐怖を刻みました。キングダムの趙の武将・万極が秦への激しい怨念を抱くのも、この史実が背景にあります。
「次は我が国かもしれない」——その恐怖こそが、本来であれば争い合う六国を、一時的にせよ団結させた原動力でした。
史実の合従軍——成功と失敗の歴史
実際の歴史において、合従軍は一度きりではありません。記録に残るところでは、紀元前288年に燕・斉・趙・韓・魏の五国が、紀元前241年には楚・趙・魏・韓・燕の五国が、それぞれ連合して秦に挑みました。キングダムの合従軍編は、このうち紀元前241年の函谷関攻めを下敷きにしています。
ただし史実の合従軍は、勝ちきれませんでした。理由は単純で、寄せ集めの連合軍ゆえに足並みが揃わなかったからです。「自国は戦わず、他国に戦ってほしい」という思惑が各国に働き、結束に綻びが生じる。秦の堅固な要塞・函谷関を前に、五国連合は退却を余儀なくされました。この「連合軍ならではの脆さ」は、キングダムの物語の中でも重要なテーマとして描かれていきます。
史実の武将と、創作の武将
このあと紹介する武将たちの多くは、実はキングダムの創作キャラクターで、史実には登場しません。しかし、すべてが架空というわけではないのです。
たとえば楚の春申君は、合従軍の総司令として史実にも明確に記録されています。総大将を務めたのは楚の考烈王でした。そして趙の龐煖も、史実で趙・楚・魏・燕の四国の精鋭を率いて秦の本拠地近くまで攻め込んだ、実在の名将です。キングダムでは「武神」として圧倒的な武で描かれますが、史実の龐煖はむしろ思想家・論客としての一面を持つ、個性的な人物だったと伝わります。
一方、キングダムで合従軍の頭脳として活躍する李牧は、史実では戦国四大名将に数えられる名将ですが、この紀元前241年の戦いには参加していなかったと考えられています。当時の李牧は趙北方の雁門で防衛を担っており、中央で大将軍となるのはこの戦いの数年後のことでした。つまり李牧の合従軍での活躍は、キングダムならではの創作なのです。
史実という骨組みに、原泰久先生が創作の血肉を与える——その絶妙なバランスこそが、キングダムが「歴史を題材にしながら、唯一無二の物語」であり続ける理由なのかもしれません。
キングダムの合従軍——六国の猛者たち
物語では、この史実を土台に、原泰久先生による魅力的な創作キャラクターたちが命を吹き込まれています。映画『魂の決戦』のキャストとあわせて、国ごとに紹介します。
キングダムでの戦国七雄の地理関係と所属武将たち👇️

【総司令】楚の宰相・春申君 — 合従軍全体を束ねる総大将。
【楚】
- 汗明(かんめい)|”楚の巨人”と呼ばれる怪力の総大将(演:勝矢)
- 媧燐(かりん)|”戦の天才”と称される女将軍・令尹(演:三吉彩花)
- 臨武君(りんぶくん)|大錘を振るう剛将(演:一ノ瀬ワタル)
- 白麗(はくれい)|中華十弓の若き弓使い(演:三山凌輝)
【趙】
【韓】
- 成恢(せいかい)|毒を操る異質な将(演:渋谷謙人)
【燕】
- オルド|山読みの技を持つ山岳族の王(演:宍戸開)
そして合従軍全体の頭脳が、趙の天才軍師・李牧(りぼく)。この知略の持ち主が、いかにして秦を絶体絶命まで追い込むのか——それが合従軍編の最大の見どころです。
まとめ|史実を知るとキングダムが何倍も面白い
合従軍とは、秦という巨大な脅威に対し、六国が「縦」に連合して立ち向かった同盟でした。史実では足並みの乱れから勝ちきれなかったこの戦いを、キングダムは個性豊かな武将たちのドラマとして鮮やかに描き出しています。
蘇秦の合従策、長平の戦いの怨念、函谷関の攻防——こうした史実の背景を知っておくと、映画『魂の決戦』のひとつひとつの戦いが、何倍も深く胸に迫ってくるはずです。
各武将の詳しい解説は、上のリンクからどうぞ。あなたの「推し武将」を見つけて、7月17日の公開に備えてみてください。
関連記事
中国春秋戦国時代の流れと人物をまとめた年表
▶中国・春秋戦国時代の年表 〜人物一覧〜

コメント