この記事では…
- 羌瘣という人物が史実に実在したかどうか
- 『キングダム』での羌瘣の描かれ方
- フィクションと史実のギャップと魅力
をわかりやすく紹介しています。
第1章:羌瘣(きょうかい)は実在した!史実での羌瘣を追ってみる。
史実の羌瘣は将軍だった!
『キングダム』で飛信隊の副長として活躍する羌瘣(きょうかい)は、女性のみで構成される刺客一族の蚩尤(しゆう)という独特な設定を持つキャラクター。
一見するとフィクションの存在のようですが、実はこの名前、史実にも登場している人物なのです。
歴史書『史記・秦始皇本紀』や、鶴間和幸氏の著書によれば、羌瘣という人物は秦の将軍のひとりとして、趙を攻めた戦いに登場しています。
具体的には、王翦(おうせん)・楊端和(ようたんわ)とともに、趙を攻撃する軍に参加していたことが2度記録されているとされています。
ただし、その記述は非常に簡素で、名前以外の詳しい情報――性別・出自・戦歴の詳細などはほとんど残されていません。
つまり、史実の羌瘣は、「確かに存在はしたが、どんな人物だったのかは分からない」という、大きな“余白”を持った歴史上の人物です。
また、作中では女性として描かれていますが、史実に女性の将軍が記録されることは極めて稀であり、実際の羌瘣も男性だった可能性が高いとされています。
蚩尤(しゆう)とは?実在したのか?

キングダムの作中では、”祭(さい)”という同族による殺し合いの末に生き残った一人だけが、最強の暗殺者として”蚩尤”になります。多くの暗殺集団の中でも伝説的な最強の暗殺者として描かれています。
一方、史記など史書の中では、『蚩尤』は伝説上の人物として登場しています。
見た目は怪物や化け物のようですが、戦争で使う武器を最初に作った人物で、”軍神”や”武神”とされているようです。
このように、『羌瘣』 『蚩尤』はいずれも史実で登場しています。ただし、両者は同一のキャラクターではありません。
しかし、始皇帝の中華統一という未曾有の偉業を支える人物の一人として「史実とフィクションのあいだ」に立つ象徴的な存在として生まれたのが『蚩尤・羌瘣』なのかもしれません。
史実での羌瘣の実績
史実における羌瘣(きょうかい)の“実績”については、実のところ具体的な戦績や功績はほとんど残されていません。
ただ、『史記・秦始皇本紀』の記録によって、趙を攻めた戦いにおいて王翦・楊端和と共に名を連ねていることが確認されています。
この戦いは、紀元前236年頃、秦が中華統一に向けて動き出した時期に起きたもの。
秦は連年の軍事行動を通じて、隣国・趙への侵攻を強めており、その際に派遣された精鋭部隊の中に、羌瘣の名があったとされています記録によれば、秦はこのとき、王翦を総大将とする大規模な攻勢を仕掛け、同時に楊端和や羌瘣ら複数の将を投入。
この布陣から見ても、羌瘣が当時の秦軍の中でそれなりの地位と信頼を得ていたことは間違いなさそうです。
とはいえ、その後の戦いで羌瘣がどのような活躍を見せたのか、どの城を落としたのかなど、細かい戦果は一切伝わっていません。
第2章:キングダムでの羌瘣

暗殺者から“仲間”へ。羌瘣の成長と変化
『キングダム』における羌瘣(きょうかい)は、作品の中でも異彩を放つキャラクターのひとりです。
彼女は暗殺一族「蚩尤(しゆう)」の出身であり、圧倒的な剣技と冷静さを武器に、物語序盤から存在感を発揮しています。
初登場時は、感情を殺し、任務だけを遂行する“暗殺者”そのものでした。
それが物語を通じて、信と出会い、飛信隊の一員となり、共に戦う“仲間”へと変わっていきます。
特に、飛信隊の中で徐々に心を開き、副長として隊をまとめ、時には信の代わりに采配を振るう姿は、まさに「成長」という言葉そのもの。
“最強の剣士”であることはもちろん、人としての内面の成長が丁寧に描かれていることも、羌瘣というキャラが愛される大きな理由かもしれませんね。
さらに、羌瘣のもうひとつの魅力は「女性として描かれていること」。
これは史実の羌瘣とは異なる創作要素ですが、女性が戦場で活躍する姿を自然に、説得力をもって描けている点が、キングダムのすごさでもあります。
ただの“強い女性”ではなく、苦しみや孤独、過去の呪いすら背負いながらも前に進む姿に、読者は“かっこいい”だけではない**“人間味”を感じて共感している**のではないでしょうか。
物語が進むにつれて、羌瘣は飛信隊の副長としてだけでなく、李信(信)と同じく「将軍」を目指す立場としても描かれています。そして、まるで六大将軍の王騎(おうき)と摎(きょう)のように、硬い絆で共に生きていく存在となっていきます。

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第3章:史実とキングダムの羌瘣をくらべて
史実とキングダムの比較
羌瘣(きょうかい)は、史実にも名前が残る実在の将軍ですが、『キングダム』では完全に異なるキャラクターとして描かれています。
では、具体的にどこが同じで、どこが創作なのか?以下の比較表にまとめてみました👇
📊羌瘣の「史実」と「キングダム」の違い・共通点
項目 | 史実の羌瘣 | キングダムの羌瘣 |
---|---|---|
存在 | 実在した将軍(秦の記録に登場) | 創作キャラだが、史実に名を借りた存在 |
性別 | 不明(おそらく男性) | 女性(シユウ族出身) |
所属 | 秦軍の一将として登場 | 飛信隊副長、のちに将軍を目指す |
登場する戦い | 王翦・楊端和とともに趙を攻めた記録が2回 | 趙・魏・楚などさまざまな戦いに参加 |
戦闘スタイル | 不明(記録なし) | 剣術と体術に長けた暗殺術スタイル |
人間関係 | 記録なし | 信との絆、飛信隊との仲間関係が描かれる |
特徴的な設定 | 将軍名としてのみ記録 | シユウ族・呼吸法・過去の呪いなど独自設定多数 |
この比較から見えてくるのは、**『羌瘣』+『蚩尤』というキャラクターが“史実に根拠を置いたフュージョン系の創作人物”**であるということ。
たった一行の記録から、ここまで奥行きのあるキャラを生み出す――
まさに原泰久先生の“創造力の力技”とも言えます。
ただの創作ではなく、「名前と背景だけは史実にある」という事実があるからこそ、
読者としても「実在してたって言われても納得できる」ような、不思議なリアリティが生まれているんですね。
こうした“創作と史実の交差点”こそが、キングダムの面白さ。
そして羌瘣はその象徴的な存在でもあるのです。
第4章:羌瘣は美しいフィクションだが、完全なるフィクションではなかった。
『キングダム』に登場する羌瘣(きょうかい)は、暗殺一族出身で、静かで冷徹、でも時に仲間想いな一面を見せる非常に魅力的なキャラクターです。
剣技の華麗さ、戦場での冷静な判断力、そして信との関係性の中に見える感情の揺らぎ――
そして、『実在した将軍』と古代中国から伝わる『蚩尤』の存在。
彼女の描写には、単なる「創作キャラ」を超えた深みがあります。
これは、フィクションとしての“完成度の高さ”がなせる技。
原先生は、史実に残る「羌瘣」+「蚩尤」の2点を拾い、その点に創造の線と色を加えながら、まったく新しい人物像を描き出したのです。
しかも、ただの創作ではなく、「歴史の余白」を尊重した上で物語をつくっている。
だからこそ読者は、「嘘っぽい」ではなく、「あり得るかも」と感じてしまうんですね。
また、女性として描かれていることも大きな魅力の一つです。
“女性だから特別”なのではなく、“人として強い・優しい・揺れる”姿があるからこそ、
羌瘣は多くの読者に愛される存在になっているのだと思います。
この記事のタイトルにもあるように、羌瘣は**「美しいフィクション」です。
けれど、その核には、確かに史実という現実のかけら**が存在している。
その“現実と創作のはざま”こそが、羌瘣の魅力であり、
そして『キングダム』という作品の魅力でもあるのかもしれません。
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📖参考文献・引用
- 鶴間和幸『始皇帝 中華統一の思想と歴史』(中公新書、2008年)
- 司馬遷『史記』五帝本紀
- キングダム原作:原泰久(集英社『週刊ヤングジャンプ』連載)
- 尹青青 『山海経』に見る王者の戦い
中央大学学術リポジトリ
https://chuo-u.repo.nii.ac.jp › record › files - Wikipedia「涿鹿の戦い」(最終閲覧日:2025年4月13日)
※本記事は、史実に基づく文献およびフィクション作品『キングダム』を参考に執筆しています。
一部に諸説ある内容や、解釈に幅のある表現が含まれています。予めご了承ください。
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